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3Dレーザースキャナーを利用したデジタルアーカイブ化の取り組み

各地で広がるデジタルアーカイブ

歴史的な建造物や文化財の保存のためにデジタルアーカイブ化の取り組みが広まっています。
建造物の劣化や事故によって失われる文化財が後を絶ちません、最近でもノートルダム大聖堂や首里城で火災事故が起きたことにより多くの文化財が失われました。
こうした事故や災害により文化財が完全に消滅してしまうような事態を防ぐためにも重要遺産のデジタルアーカイブ化は急務と言えるでしょう。

そもそもデジタルアーカイブとは?

デジタルアーカイブというのは90年代に生まれた和製英語のこと。英語では”Digital Cultural Heritage(Cultural:文化的な、Heritage:遺産)”などと呼ばれます。
有形・無形の文化資源をデジタルデータとして記録することで次世代への文化の継承に役立てたり、文化財へのアクセスを減らすことで文化財を損傷から守るといった目的があります。
最近ではインターネットやVR技術と組み合わせたバーチャル観光資源として、現地に来られない人に向けた文化財の魅力を発信する試みなどにも利用されています。

デジタルアーカイブ化することによる利点

デジタルアーカイブ化によりオープンなデジタルコンテンツが増えることで、資料の保存以外にも様々な活用が可能となります。そのような社会をデジタルアーカイブ社会と呼ぶ人もいます。
デジタルアーカイブ社会のメリットとしては、研究目的として自由にデータにアクセスできるようになり研究活動の活性化が見込める、観光VRを作り地方創生に役立てる、多言語化により海外発信が容易になる、デジタルコンテンツに付加価値を付けビジネスに活用するなどと言ったものがあります。

新型コロナウィルスの蔓延による巣ごもり需要としてバーチャル旅行がにわかに注目を浴びていますが、そうした新たな様式、新たなニーズに対応できるといった利点もあります。
価値ある文化的資産を有効に活用するために様々な国や自治体がデジタルアーカイブを推進しており、その取り組みは今後ますます広がっていくでしょう。

デジタルアーカイブの方法

建造物のデジタルアーカイブ化の場合、写真を始めとした様々な資料を集めてモデリングを行うという方法がとられることが多かったのですが3Dレーザースキャナーの登場によってより詳細な点群データとして保存ができるようになりました。
3Dレーザースキャナーによるデータは表面の凹凸までしっかりと記録できるため、肉眼では気付かなかった模様や構造を発見できるなど、研究資料としても役立っています。
他にも、光学による非接触方式なので対象を傷めずにスキャンできると言った利点があります。

3Dレーザースキャナーの活用事例

ノートルダム大聖堂

2019年に焼失したノートルダム大聖堂にはデジタルアーカイブプロジェクトにより制作された3Dレーザースキャナーによるデジタルデータが残されています。
このプロジェクトは数年前にアメリカの故アンドリュー・タロン教授とArt Graphique Patrimoine(AGP)というフランスで文化遺産の3Dデジタルアーカイブ化の取り組みを行っている団体の協力のもと実施されたものです。
現在AGPはフランス政府の要請を受け復元プロジェクトの為の支援を行っており、ノートルダム大聖堂再建への大きな役割を担っています。
参考: アンドリュー・タロン教授がワシントン大聖堂のスキャンを行った時のインタビュー

佐貫石仏

国内でもデジタルアーカイブ化の取り組みが行われています。栃木県にある佐貫石仏もデジタルアーカイブ化された遺産の一つです。
石仏の形状を点群データによって分析することで肉眼では視認しづらかった形状が発見でき、石仏本来の構造が確認できるようになりました。
これにより石仏の全体像が明らかになるという学術的な成果も生まれました。この成果はデジタルアーカイブが遺産の保存以外にも役立つという一例と言えます。

クラウドファンディングを利用した3Dデジタルアーカイブの取り組み

宮城県にある旧都城市民会館は1966年に建てられたホールで「メタボリズム」という建築思想に基づいて設計された歴史ある建築物。
老朽化のため取り壊しが決定していましたが、図面だけでは記録しきれない複雑な構造を残すために3Dデジタルアーカイブとして記録保存することが決まりました。
その資金集めのためにクラウドファンディングを行い、3Dデータとして保存することに成功しました。

このプロジェクトで制作された旧都城市民会館はARデータが公開されておりtwitterのハッシュタグ「#旧都城市民会館AR」ではユーザーによる写真が投稿されています。

  • クラウドファンディング
    支援サイトなどで不特定多数の出資者を募り資金を集める資金調達方法。
    個人の出資者から広く出資を募るので多様なプロジェクトがある。

ヨーロッパにおけるデジタルアーカイブ化の取り組み

国内では国立国会図書館デジタルコレクションによる電子資料の公開などが有名ですがヨーロッパでも先進的なデジタルアーカイブ化が進められています。
EUでは文化遺産のためのデジタルプラットフォームとしてヨーロピアナというWebサイトを運営。EU各国から集められた文化遺産などをオープンデータとして公開しており、誰でもアクセスすることが可能です。
EU加盟国の図書館や博物館が所蔵する書籍、文献、映像、絵画などを検索・閲覧でき、モナリザを始めとした有名絵画なども閲覧することができます。

ヨーロピアナ(Europeana)

まとめ

このように、文化財の保存やそのデータの活用などを目的としたデジタルアーカイブ化が広まっています。
有形無形の文化財の中には懸命の努力にも関わらず、崩壊や焼失してしまうものが多数あります。
後世に遺産を伝えていくためのリスクヘッジとして、デジタルアーカイブ化というのは非常に有効な方法の一つです。